冬、家庭で最も歓迎される料理は、なべ料理であろう。煮たて、焼きたてが食べられるからである。
なべ料理では、決して煮ざましを食べるということはない。クツクツと出来たての料理を食べることが、なによりの楽しみである。だから、なべ料理ほど新鮮さの感じられる料理はない。最初から最後まで、献立こんだてか ら煮て食べるところまで、ことごとく自分で工夫し、加減をしてやるのであるから、なにもかもが生きているというわけである。材料は生きている。料理する者 は緊張している。そして、出来たてのものを食べるというのだから、そこにはすきがないのである。それだけになんということなくうれしい。そして親しみのもてる料理といえよう。
しかし、材料が鮮魚、鮮菜という活物いきものが入った上での話である。入れるものがくたびれていたのでは、充分のものはできない。これは、なべ料理にかぎらぬ話であるが、念のため申し添えておく。
家庭でやるなべ料理は、原料はこれとこれだけと、決っているわけではない。前の晩にもらった折詰おりづめものだとか、買い置きの湯葉ゆばだとか、だとか、こんにゃくだとか、あるいは豆腐を使おうと、なんでも独創的に考案して、勝手にどんなふうにでもやれるのである。「なべ料理」のことを、東京では「寄せなべ」というが、上方かみがたでは「楽しみなべ」ともいっている。なぜ「楽しみなべ」というかといえば、たいのかしらがあったり、蒲鉾かまぼこがあったり、かもがあったり、いろいろな材料がちらちら目について、大皿に盛られたありさまが、はなやかで、あれを食べよう、これを食べようと思いめぐらして楽しみだからである。